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2005-12-15

珠玉

『二十一の短編』 グレアム・グリーン/高橋和久・他訳 ハヤカワepi文庫

 読了。以前出ていたものの新訳版とのこと。

 グレアム・グリーンという人は本当にうまいと思う。
 なのに、なぜか次を読もうという気に、なかなかならない。
 『ハバナの男』は学生のころ、ずいぶんおもしろく読んだ記憶がある。ずいぶん後になって読んだ『おとなしいアメリカ人』は、いまなお今日的な価値を失わない、というよりも、今日の世界情勢においてはますます輝きを放っているなぁ、と、思わず優等生的につぶやいてみる。
 だけど、読み終えて、次にグリーンを読むのはかなり先のことになるのだろうなとも同時に思う。なぜだろう?

 この短編集も、かなり楽しんだ。短編だと、グリーンという人が本当にうまい作家だと言うことがとくに良く分かる。
 たとえば、次の一節はどうだ。夫の不倫を知った妻が、夫と争う場面。

 夫人が階段のてっぺんにたどりつく前に、ベインズは彼女の腰をつかんだ。夫人が黒い木綿の手袋を彼の顔に投げつけ、彼は夫人の手に噛みついた。彼は考える余裕もなく、赤の他人のように夫人に立ち向かい、夫人のほうもすべてを知った憎しみで反撃した。みんなに思い知らせてやるつもりだったから、誰から先でもよかった。みんなが彼女を騙したのだ。しかし鏡の中の年老いた姿が彼女のそばにいて、威厳を保つのだ、威厳を捨ててもかまわないくらいに若くはないのだから、と教えていた。彼の顔を殴ってもいいが、噛みついてはいけない。押してもいいが、蹴ってはいけない、と。  (「地下室」若島正訳)

 彼女の容姿やら表情から服装まで、いや彼女のこれまでの人生までもがこの短いパラグラフに凝縮されているではないか。

 たぶん、グリーンはうますぎるのだと思う。うますぎて逆に強く惹き付けられるものがない。って、勝手な言い分だと思います。
 しかし、あまりに隙がないとエモーショナルな部分に訴えるものがないということだって、世の中にはあるのだ。

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