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2005-12-10

神はなぜ死んだのか?

 『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』 ジュリアン・ジェインズ/柴田裕之訳(紀伊國屋書店) 読了。

 うーむ、信じがたい。しかし魅力的だ。

 なにしろ、数千年前まで人間は「意識」を持っていなかった、というのである。意識がないといっても、気を失っていたわけではない。「意識」とはまったく別の、「二分心」という精神構造を持っていた。
 では、彼らはどうやって行動していたのか? 「神」の命令に盲従していた。では、その「神」はどこにいるのか? それぞれの人間の右脳の中に(!)。
 要するに、太古の人間は大脳右半球に由来する「神の声」(幻聴)を聞いて、次にとるべき行動を決めていた、というのだ。
 その後、文字が発明され、言語が深化していくとともに「二分心」は次第に崩壊し、人間は「神の声」を失う。それに代わるものとして登場したのが「意識」だ、というのが本書の骨子。

 著者によると、例えばギリシャでは、「イーリアス」の大半が成立した時点の人類は「二分心」の持ち主。「オデュッセイア」の時点では「意識」が芽生えていた、という。

 ほとんどトンデモ本の世界。

 ところが読んでみると妙に辻褄があっている。そうだったのかもしれないと思えてくる。少なくとも、僕の知識程度では矛盾らしき矛盾が見出せない。
 というより、SF読みとしては、そうだったらスゲーことだぞ、これは、と。そうだったらワンダーだな、と。

 この感じは、そう、これを読んだときの感じに似ている。↓

 『一万年の旅路―ネイティヴ・アメリカンの口承史』 ポーラ・アンダーウッド著/星川淳訳 翔泳社

 これはネイティブアメリカンに伝わる口承史。特別な訓練をつんだものだけが記憶し、あるときは新たな事件を継ぎ足して、1万年以上も代々伝えてきた物語だ。
 アジアに住む一族が、地続きだったベーリング海峡を通ってアメリカ大陸に渡り、五大湖のほとりに定住するまでの、波乱万丈の一族の歴史なのだが、記述が具体的で細部にわたっているので、これが本当に1万年以上にわたって代々語り継がれてきた実話だったらスゲーな、と。 「ひょっとしたら途方もないものに出会っているのではないか」(訳者あとがき)と。だって1万年も前の人間の行動が、まるで著者の親戚の誰かのこないだの話のようなノリで語られるのだ。
 ただし、残念なことに肝腎の話そのものは、あまりおもしろいとは思わなかったし、確か超能力のようなものがスルっと登場したりして、その辺もどう受け止めてよいか分からない。
 ネイティブアメリカンがベーリーング陸橋を渡って北米に定着したモンゴロイドの子孫だという説が有力になったタイミングで本書が世に出たというのも、怪しいし。

『神々の沈黙』にも、そういう、信じていいのか疑っていいのか分からない部分も含めて、似たようなセンス・オブ・ワンダーがある。

 まあね、ことは「そもそも意識とは何か」ということを明らかにしなくては語りえない問題である。太古の人類に意識がなかったことを論証しようというのは、逆照射的に「ではその後どのようにして意識は生まれてきたのか」を論証するということでもあり、「意識」を伴わない行動、あるいは文明というのはどういうものかということを具体的に示すということでもある。それには当時の言語やら文字やら文化やら社会やらを、心理学、社会学、精神分析学などの知見を背景に横断的に考察するということで、ということはつまり、僕などの手にはとても負えないということなんだが…。
 だからこそ本書はスリリングなのですよ。この問題がここであの問題とリンクするのか、と。

 ただし、文章はかなりくどい。

 評価(というようなものがなじむのか? という気もするが)は、★★★★。

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