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2005-09-04

グールド魚類画帖

『グールド魚類画帖 十二の魚をめぐる小説』 リチャード・フラナガン著/渡辺佐智江訳 白水社

 ようやく読了。八月中旬の休暇からこっち、ずっと持ち歩いていた。9月1日の記事のような事情もありなかなか読み進まなかった。

 で、読み終えての感想だが……。かなりおもしろかったと言ってよいのだろう。残酷で悲惨で笑いに満ちていてグロテスクだが、根底にかなりプリミティブな生への賛歌のようなものが潜んでいる。終盤近くではそれがむしろ表面に出すぎて(それまで理知が物語を牽引するような書き方をしてきただけに)、少し興ざめのような感じになるが。

 流刑地であったころのタスマニアを舞台に、実在した囚人ウィリアム・ビューロウ・グールドの物語が12枚の魚のスケッチをモチーフに語られる。章のあたまに入れられたそれらの絵は、実際にグールドが描いたもので、作者フラナガンは何年も前にこの水彩画に出会ってこの小説を構想したという。

 メタ・フィクション的な要素を持っていて、ごく大まかに言えば「入れ子」の構造なのだが(仕舞いまで読むと必ずしも入れ子になっているとは言い切れない。あるいは「クラインの壷」か「ウロボロス」か?)、その一章ごとに書き手はさまざまなものをインクの代わりに用いて書いたという設定になっている。原書ではそのインクの代用物に合わせてインクの色変えているそうだが、日本語への翻訳である本書ではそれは実現しなかった。

 第一章と最終章のみ黒で、ほかはすべて茶色のインクで印刷されているのだが、そのくらいならすべて黒に統一してもらったほうがいっそ良かった。単なる本のデザインの話にとどまる話ではないと思われるので本当に残念だ。

 訳文は概ねすばらしいといってよいと思うが、ところどころいくら読んでも文意の通らないところがあった。僕の頭が悪いのか、重要なことを読み逃しているのか、訳者(あるいは出版社)が悪いのかは判断できない。

  評価は★★★★

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「本を読んだ」カテゴリの記事

コメント

こちらを知ってから、いつもアップされるのを楽しみにしております。
今日の『グールド魚類画帖』のご紹介・・・

>かなりおもしろかったと言ってよいのだろう。残酷で悲惨で笑いに満ちていてグロテスクだが、根底にかなりプリミティブな生への賛歌のようなものが潜んでいる。終盤近くではそれがむしろ表面に出すぎて(それまで理知が物語を牽引するような書き方をしてきただけに)、少し興ざめのような感じになるが

の個所で、思わず、う~ん・・・と悩んでしまいました。購入するのは、今しばらく保留とさせていただきます。(苦笑)

投稿: gekkouinn | 2005-09-04 19:26

gekkouinnさま。

 コメントありがとうございます。

 >思わず、う~ん・・・と悩んでしまいました。

 うーむ、そうですか。やはり気持ちというのは文章に出ますねぇ。いや、基本的にはおもしろく読んだんですよ。でも人さまにお薦めしようという気持ちをあまり強くは持てなかったので…。だったら書くな、というようなもんですが。
 インガですかね(笑)

 ひとつには、とても洗練されているように見えるところと土着的な感じのするところがあって、どちらも魅力的なんだけど、トータルとしてどう受けとめて良いのかわからない、というような感じ。
 もうひとつは、ジョン・キースやらコンスタブル、あるいは蒸気機関のスティーブンスンといった同時代の人物が、直接は登場しませんが、伝聞やら噂話の形で出てきて、しかもそれに関する記述がどうも意図的に前後で矛盾している。かなりブッキッシュな面があるようなのですが、そうだとするとその辺がたぶん僕には読み取れていない。

 そのあたりを整理しないままに書いたからすっきりしない文章になってしまいました。
 ただ、ネットを検索すると大変誉めておられる方も多いようで、そちらをお読みになったらあるいはgekkouinnさんのお気持ちも変わるかもしれません。

投稿: maimai | 2005-09-05 12:02

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字がちっさくて 本の厚さが分厚くて 値段が妙に高い本 ってのは気合が入ります 秋の夜長にぴったり 6月に買って寝かせておいた本 本の帯には 英連邦作家賞受賞作品       タスマニアの孤島に流刑された画家グールドは、       島の外科医殺害の罪で絞首刑を宣告される。       残虐な獄につながれ、魚の絵を描き、処刑を待つグールド・・・       その衝撃の最期とは? なんだかダ�... [続きを読む]

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